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おそろしい話 



学校でおそろしい話を聞いた。
ある学生が「国際」と謳ったある「芸術賞」に応募したところ、主催者(芸術系出版社)から電話があり「おしくも選に漏れたが、外国人の審査員が特にあなたの作品を推して、特別枠として認められた。つきましては、モントリオールの授賞式?に参加してほしい。渡航費XX万円負担いただくことになるが......」といった事を言われたらしい。
調べてみたところ、まずその賞の正式名称でGoogleすると、8件しかヒットしない(アリエナ〜イ^_^;)。主催者名でいろいろ調べてみると、かなりあやしい会社のようで、高齢者の創作作家を主なターゲットに、各種美術会員名簿から勧誘しまくり、「海外の美術展であなたの作品を出展したい」云々という商売をやっているようだ。正直、またか、といった思いである。というのは、同じような話で、絵本コンテストに応募するとやはり電話がかかってきて「惜しくも選に漏れたが、埋もれさせるには惜しい作品。出資していただければ出版することができる」という商売があり、こちらは以前、学生が何人も勧誘されている。タチが悪いことに、こちらの某出版社2社は某有名新聞社や有名美術誌に広告出稿、それらのサイトにもバナー出稿していたり、学校沿線であるJR湖西線の社内広告としてコンテスト公募を行っていたりする。
著名人の本も出していたりするから、一般の人がちゃんとした出版社だと信用して応募するのも無理はない。
これらの商法は完全な詐欺ではなく、実際に入選した人は賞金を手にしたり、本が出版されたりしているのだが、当然、これらはエサであり、本当の目的は「惜しくも選に漏れた人」からなにがしかの金を出させることにある。
どうも世の中には、美術コンテストや出版ということを誤解している人がいてるらしく、絵を売ってもらうことや本を出すことに、自分がお金を出して当然、と思っている人が少なからず居てるらしい。
そりゃ、自費出版や同人誌即売会といった世界では、自分で身銭を切って本を作りイベント参加料を払い、自ら本を持ち込んでそれでも売れない(瀑)というのが普通である。しかし、商業出版の世界というのは、これとは全く異なる世界であり、自分が作った作品、仕事の対価として原稿料をいただいて生活することが基本で、まちがっても身銭を払って本づくり、本の販売を委託する、なんてことはありえない。ぼくは幸いにして、今まで数々のまっとうな出版社さんと縁があって仕事をさせてもらってきたが、著者購入(いただく見本誌以上、自著が欲しい場合は自分で買い取る)以外、1銭だって請求されたことはない。。コーヒーだってヤキニクだっておごってもらうのである(笑)

間違って欲しくないのは、自費出版や個展はちっとも悪いことではない。商業出版、商業美術の世界は売れなければ商品にならない世界だから、需要と供給の関係が成り立つ必要がある。市場がないものを作っても商売にならないのは当然だから、ニーズにあわせて仕事をする必要がある。幸いにしてニーズと供給が一致すればいいが、自分がいいと思って作るものと、市場のニーズは残念ながら必ずしも一致しない。だからこそ商業ルートに載らない、自分の思い入れのある作品は自費出版や画廊を借りて自分で世に送り出すことはとても素敵なことだ。自分で印刷所に入稿したり販売したりする時間や知識がない人が、業者に委託することも全然悪くない。だから前述のコンテスト主催出版社の用意する「商品」を納得して「購入」すること自体は悪いことでもなんでもないと思う。
しかし、なにも知らない無名作家をおだてまくってお金を出させる、という商売のやり方がまともであるわけがない。
実際、先の出版を持ちかけるケースでは印刷製本費用同等以上の金額が「製作費・営業経費」とし、請求される。納得づくならそれも問題がないが、それが「(自費)出版の相場だ」と「思わせるようにしむける」やり方は「●●まがい」と言われても仕方がないのではないか。お金を読者ではなく、作家に出させる、というのは、営業上非常に有利なのである。1000人に対して営業して得られる利益をたった一人の作家に対する営業で得ることができるから。そんな風にして出版された本を、その出版社が「まじめに売ろうと努力」するかどうか、ちょっと考えてみればわかることである。
もし、うちの学生でこれを読んでいる人がいたら、このさいだからはっきり言っておこう。学校ではタテマエ上「コンテストに応募するのはいいが、ひっかからないように」という風に言っているが、まっとうに絵の世界で生きていきたいのであれば、絶対にこういったコンテストには応募してはいけない。ついでにいっちゃえば、世の中のコンテスト、賞の半分以上は(プロに作品を頼むと高いので)単に安価にコンテンツを得たいためだけに主催されている。じゃあ、どうやってそれを見分ければいいのか、といえば、大手出版社から商業出版の経験が複数回ある先生に相談しなさい。あと、新聞や本を「たくさん」読んで、いろんな経験をして、世の中を勉強しなさい。そうしないとこわいオトナたちに食い物にされちゃうよ。

※詐欺ではないので、具体的な出版社名は避けました。どうしても知りたい人はメールで。 

投稿日時: 土 - 7月 1, 2006 at 04:58 午前     | |   Top